あきちゃんの結婚奮闘記 ③
あきちゃんの自宅の建て替えが完成してしばらくたったころ、来客がありました。
その日はあきちゃんもお休みで、久しぶりに両親と新居でのんびり過ごしていたところでした。
ご近所の人かと思いインターフォンにでてみると、スーツにネクタイ、手土産を持ったカメラマンでした。
仕事先ではときどきカメラマンと会っていて、それまでと変わることのない仕事仲間としての付き合いが続いていましたし、プライベートな話をするほど親しくもなっていたので、新居が完成したことも、高齢の両親の介護のことも話していました。
ただ、両親にはカメラマンのことはもちろん、プロポーズされたことも一切話していなかったので、突然の訪問にあきちゃんは驚きました。
プロポーズはすでに断っているし、何の用かと思いつつも、仕事仲間のせっかくの訪問を断るのも失礼なのでとりあえず家に上がってもらいました。
できたてほやほやの新居と、部屋のデザインに合わせた新品の家具。
いつものおもてなしで、お茶とお茶請けを用意してカメラマンを迎え入れるあきちゃん家族。
両親にカメラマンを紹介して、よもやま話に花が咲き、カメラマンの故郷からの手土産の説明を受けたあとあきちゃんは、「どうしたの?スーツなんか着て。今日、なんかあったっけ?」と切り出しました。
するとテレビのワンシーンでも見ているかのようにかしこまったカメラマンが、唐突に「あきちゃんと結婚させてください」と両親に向かって土下座をしたのです。
あきちゃんの両親が結婚を承諾してくれないと思っていたカメラマンが直談判にきたのでした。
両親は「ん?」と訳が分からない様子。
あきちゃんも唖然。
しばしの沈黙・・・
あきちゃんのことをよくわかっている父親は突然のことではあったものの
「それはあきが決めること。あきが結婚したいならどうぞもらってやってください」
すんなりと受け入れてくれた父親に対してカメラマンも拍子抜け。
プロポーズを断ればあきらめるだろうと思っていたあきちゃんも、カメラマンの真剣な求婚に事情を話さずにはいられなくなりました。
あきちゃんの結婚する条件は自分の両親の面倒を見ていくことと、跡継ぎを絶やさないための婿養子。
長男であるカメラマンには条件が厳しすぎると思っていたこと。
それ以外はなんとかなること。
フリーのカメラマンで収入は安定しないけれど、そこはあきちゃんの稼ぎでどうにでもなると考えていたものの長男を婿養子に迎え入れるには
相手方のご家族に負担がかかりすぎると思ってプロポーズを断ったこと。
それを聞いた父親は「そんなことはどうでもいい。あきが幸せになればいい」としか言えませんでした。
それでもあきちゃんの意志は固く、両親の前ではっきりプロポーズを断ったのでした。
これで何度目だったのでしょう。
あきちゃんのそんな条件にあう出会いがあるのでしょうか。
母親は見守るばかりでした。