統合失調症という病気
ある日とても親しくしていた近所の知り合いの20歳になる娘さんが家を逃げ出してしまいました。
家を出て行った時の様子がおかしく、心配した親御さんが警察に捜索願を提出し、私にも娘さんを探してくれるように連絡をしてきました。
私は家の近くはもちろん、ネットカフェや心当たりの場所を探しましたが見つかりません。
夕方、娘さんの持ち物と思われるカバンが自宅から数キロ離れた路上にばらまかれていたと警察から連絡が入りました。
まさか事件に巻き込まれたのではないかと気が気ではなく、その日は悶々とした気持ちで娘さんの無事を祈りながら過ごしました。
次の日の早朝、自宅から20キロ離れたところで警察に保護されたという連絡が入りました。
保護された時の詳しい状況は分かりませんが、娘さんの話している内容や様子がどうもおかしいということで、警察署につれてこられたそうです。
ご両親が呼び出され、ソーシャルワーカーと精神科医と面談することになりました。
面談の結果、そのまま精神科のある病院に入院させることになったのです。
精神科での診断結果は統合失調症ということでした。
娘さんは幻聴による「ここから逃げろ」という命令で、突然遁走したそうです。
鍵のかかっていない自転車を盗み、その途中でカバンを投げ捨て20キロ離れた町まで逃げました。
どこをどう走ってきたのかは分からず、全て頭の中で命令されるままに行動したそうです。
疲れて身を隠した場所は教会の一角だったらしく、次の日の朝、庭の掃除をしようとしていた牧師さんの奥さんに発見され、警察に保護されるに至ったそうです。
統合失調症は100人に1人がかかる病気だと言われています。
10代後半〜30才頃の発症が多く、脳の機能の調整がうまくいかなくなって、幻聴や妄想、生活のしづらさなどの症状があらわれるようです。
聞いたことのない病名にご両親は驚いて、そして自分を責めていました。
大切に育ててきた一人娘の将来に悲観していました。
実は私の友人の妹も統合失調症なので、私はこの病気をよく理解していました。
原因ははっきりとは分かっていませんが、決してご両親の育て方や、本人の性格から発症するような病気ではありません。
その人がもつ体質と、ストレスなどとのかね合いで病気になるといわれています。
誰のせいでもないのです。
統合失調症は、薬で脳神経のバランスを調整しながら、幻覚や妄想、感情の不安定さや不安感を和らげ、再発を予防し、時間をかけてゆっくりつきあう脳の病気です。
症状はそれぞれですが、悲観せずに病気はその人の一部分として生活していくことが大切です。
薬を飲みながら社会生活を送っている人もたくさんいます。
安心できる環境で人との繋がりを持ち、本人にできることに注目していくことで回復を進める力になります。
私は引っ越してしまったので、その後、娘さんとご両親がどうしているかは分かりません。
ただ、娘さんは退院した直後にネットで知り合った6つ歳上の男性と交際を始めたことは知っています。
現在も付き合っているのか、はたまた結婚しているのか分かりませんが、統合失調症という病気に理解がある人と一緒になっていれば、ご両親もさぞ安心だろうと思います。